インフルエンザウイルスなどとは違って、HTLV-1に感染していても自覚症状はありません。また、HTLV-1に感染していても約95%の人は生涯病気になることはありません。ウイルスに感染していても発病しない人のことを「キャリア」とよびます。
HTLV-1感染者のごく一部で
・ATL(エーティーエル):成人T細胞白血病
・HAM(ハム):HTLV-1関連脊髄症
・HU(エイチ ユー):HTLV-1関連ぶどう膜炎
を発症します。これらの病気が発症するしくみについては、まだはっきりとわかっていません。
1人のHTLV-1感染者が生涯にATLになる確率は約4~5%、HAMになる確率は約0.3%といわれています。また、個人差がありますが潜伏期間はATLで40年以上、HAMやHUは数年以上といわれています。つまり、ATLは40歳を超えるまでほとんど発症しませんが、HAMやHUは若い人でも発症することがあります(HAMの平均発症年齢は40代です)。ATLは男性に多く、HAMとHUは女性に多い傾向があります。HAMはHUを合併して発症することもあります。
HTLV-1は、人の体に入り込むと、血液中の白血球の1つであるTリンパ球に入り込みます。体の中では、侵入したウイルスを取り除こうとする免疫反応が起こり、HTLV-1に対する抗体(抗HTLV-1抗体)が作られます。
普通は、作られた抗体の働きで体の中からウイルスを取り除くことができますが、HTLV-1は、侵入したTリンパ球の中でさらに遺伝子の中にまで入り込んでしまうため、作られた抗体では取り除くことができなくなってしまうのです。つまり、HTLV-1は侵入したTリンパ球の遺伝子の中で生き続けることになります。この状態を「持続感染」とよびます。
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HTLV-1は感染力が極めて弱いウイルスです。そのためHTLV-1に感染したTリンパ球が生きたままの状態で大量に体内に入らなければ感染は起こりません。
感染経路としては |
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1986年以降は、献血された血液がHTLV-1に感染しているかを検査するようになったため、現在では輸血による新たな感染はありません。
HTLV-1感染Tリンパ球は、乾燥、熱、洗剤で簡単に死ぬため、水、衣服、食器、寝具などからうつることはありません。また、HTLV-1は飛沫感染しないので、くしゃみや咳でもうつりません。隣に座る、握手をする、一緒に食器を使う、一緒にお風呂やプールに入る、トイレを共用するなどといった職場や学校での社会生活のなかで感染することはありませんので、HTLV-1に感染していてもこれまでと同じように生活を送ることができます。
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うつりません! ![]() |
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ただし、次のことはエイズウイルス、肝炎ウイルスなどの場合にも同じで、HTLV-1に限ったことではありませんが、血液が付着した歯ブラシや剃刀を共用すること、消毒が不十分な器具を使用して刺青を入れたりピアスの穴を開けること、同じ注射器を使って違法薬物などを回し打ちすることは感染の可能性がある危険行為です。絶対に行わないようにしましょう。
HTLV-1に感染しているお母さんから赤ちゃんへの感染は、主に母乳中に含まれるHTLV-1に感染したTリンパ球が原因です。母乳からの感染を防ぐには、①育児用ミルクを与える、②3ヶ月以内の短期間に限って母乳を与える、③冷凍した母乳を与えるといった3つの方法が有効です。産科や小児科の医師と一緒に、お母さんと赤ちゃんにとって最適な栄養方法について考えて行きましょう。
また、性交渉によるパートナーからの感染は、精液中に含まれるHTLV-1に感染したTリンパ球が主な原因です。特に長期間にわたって性交渉が続く夫婦間での感染が多いと言われていますが、どのくらいの頻度なら感染が起こるかなど、まだはっきりとわかっていません。性交渉による感染を防ぐにはコンドームの使用が有効です。
子供をもつことを希望している場合には、まずはパートナーと十分に話し合いお互いの意思を確認してください。ただし、HTLV-1に感染していても妊娠に影響することはありません。またHTLV-1が原因で赤ちゃんに奇形が生じたり、産まれた後に異常を起こすこともありません。少しでも疑問や不安がある場合は、お住まいの保健センターに相談してください。
HTLV-1に感染しているかどうかは、血液検査を行ってHTLV-1に対する抗体があるかを調べます(上記「HTLV-1に感染しているとは?」参照)。最初の検査(PA法またはCLEIA法と呼ばれています)で陽性が疑われる人を選び出し、さらにもう一度確認検査(ウエスタンブロット法)を行って判定します。二回の検査を行うことで、最初の検査で陽性と疑われても実際にはそうでない人(偽陽性)をのぞくことができます。この検査の結果が出るまでには数週間かかります。
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また、HTLV-1に感染した直後は、検査で正しい結果が出ない場合があります。新たに感染したのではないかと不安がある場合は、数ヶ月後に再度検査を受けてみてください。
妊娠中の方は、妊娠30週までに行われる妊婦健診の中にHTLV-1に対する抗体の検査(上記「HTLV-1の感染の調べ方は?」参照。)が組み込まれています。費用はお住まいの地域によって異なりますので、かかりつけの産婦人科にお問い合わせください(基本的に無料で受けられるように国が補助をしています) 。
それ以外の方は、保健所でHTLV-1に対する抗体の検査(上記「HTLV-1の感染の調べ方は?」参照。)を実施する検査体制を整備することと国のHTLV-1総合対策に記載されていますが、実施状況は地域、施設によって異なりますので、お住まいの地域の保健所にお問い合わせください。
また医療機関でも検査が可能ですが、自費で行われる場合があります。詳しくは検査を希望する医療機関にお問い合わせください。
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■HTLV-1に関する冊子「よくわかる詳しくわかるHTLV-1」(PDFファイル)
※訂正:上記冊子9ページにHTLV-1の感染検査は、保健センターで受けことができるとの記述がありますが、保健所の間違いです。
■HTLV-1に関する冊子「HTLV-1 キャリアのみなさまへ」(PDFファイル)